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盗人に 取り残されし 窓の月  (良寛)

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 貧乏で無一物の良寛さんの草庵に泥棒が忍び込んできました。良寛さんは、朝早くから托鉢には出たものの、結局子どもたちとの遊びにうつつを抜かしたために、ろくろくお布施をもらえずに疲れて帰庵しました。それでやっとお粥の夕食を済ませると、すぐに床を敷いて、ぐっすり寝込んでしまいました。

 

 ところが、ひと眠りした良寛さんは、部屋の片隅から聞こえる物音に、ふと目を覚ましました。目を凝らしてみると、手拭いで頬かむりをした男が、物色しているではありませんか。明るい月の光が雨戸の隙間から差し込んでいるので、その男の仕業が手にとるように見えています。部屋の隅の米壷に手を入れて、空っぽであることを知った彼は、今度は壁に掛けてある頭陀袋の中を探しだしました。けれども、その中には、手まりとおハジキ、それに破れ手拭いが入っているだけで、びた一文のお金も見つかりません。男は、眠ったふりをしている良寛さんの足元に立ちすくんで、尚も部屋中を探し回ってみたものの、金目のものはありません。

 

 そこで彼は、そーっと掛布団の端を握って引っ張ろうとしました。そのとき、さっきから彼の挙動を細目で見ていた良寛さんは、両足でぐーっと布団を蹴り下げながら、大きく寝返りをうって、からだを布団の外へ乗り出してやりました。そんなこととは知らずに喜んだ泥棒は、難なく布団を引き寄せて、それを小脇に抱えると、ぬき足さし足で庵の外へ出ていってしまいました。

 

 

 泥棒は、やむを得ず役にたたない物を手にして帰った。泥棒を思いやって窓から外を眺めると、ただ盗り忘れられた月だけが、明るく輝いていたのでした。

 良寛様の大らかで優しさがにじみでた詩とその物語です。