般若心経(はんにゃしんぎょう)で親しまれている『摩訶般若波羅蜜多心経(まかはんにゃはらみったしんぎょう)』は、「大般若波羅蜜多経」600巻という膨大な経典から重要な点をまとめたものとされています。玄奘三蔵・鳩摩羅什などが訳し8種類あります。中でもインドで仏教を研究し中国語に翻訳した玄奘三蔵訳は、序文や流通文を略した簡潔なもので日本人に馴染深いです。題目から最後の般若心経まで276文字の経典に「無」21文字あります。
般若心経は、釈尊が居て、観自在菩薩が居て、人々の代表者として舎利佛がいる関係になって説かれています。
般若心経の思想は「空」です。つまり、この世の中、全てにおいて永久不変なものはなく実体が無いということです。「実体が無い」と説いているのは、「五蘊」「十二処」「十二縁起」「四諦」など、お釈迦様が説かれた仏教の中心的な思想です。とらわれのない大いなる智慧を悟ることが安らかな境地だと考えます。
「五蘊(ごうん)」とは、「色蘊」「受蘊」「想蘊」「行蘊」「識蘊」5つのあつまりです。人間の身体も含め、この世の全ての構成要素がこの五蘊です。例えば、我々人間は一見同じに見えるが、常に変化しています。だから実体が無いということ。実体が無いことが「空」。原因と結果による因果関係による縁起であるから永久不変のものはない。この世は「空」の世界です。
○みることの出来る現象的な存在
「色蘊」…私たちを取り巻く形ある世界(形)
○心や精神の働き
「受蘊」…感じる作用(感覚)
「想蘊」…想い浮かべる作用(概念)
「行蘊」…自己の心の働く方向(意志)
「識蘊」…自己の心でとらえている状態(意識)
「十二処(じゅうにしょ)」とは、
○六根…「眼」「耳」「鼻」「舌」「身」「意」と
○六境…「色」「声」「香」「味」「触」「法」を合わせたのが十二処です。
六根…
「眼」「耳」「鼻」「舌」「身」「意(意識)」」は、身体の器官とそれぞれの働きです。この六根が「空」実体が無いと説くのは、その一つ一つの働きにとらわれ、こだわってはいけないということです。六根清浄というが、六根の執着から離れることが智慧を授かるということです。
六境…
「色」色彩、形状、上下左右など
「声」言葉、音響など
「香」香り
「味」味(苦い、酸っぱい、甘い、辛い、塩辛い)
「触」触覚(温・冷・重・軽・滑・渋・飢・渇・堅・湿・動)
「法」心(精神)
六根の働きによる対象世界が六境。この働きにもとらわれてはいけない。好き、嫌い、良い、悪いなどこだわりの概念を捨てること。これも実体は無い。
更に、六根と六境の感覚器官とその対象が合わさり6つの識「六識」が出来ます。
○六識…「眼識界」「耳識界」「鼻識界」「舌識界」「身識界」「意識界」
六根、六境、六識を合わせて「十八界」という。ここにも実体は無い。
「十二縁起(じゅうにえんぎ)」とは、人の苦しみがどこから生じているか説いた縁起の法則です。
過去の原因
① 無明(むみょう)…煩悩の根源、迷い
② 行(ぎょう)…行為(善悪の行いが原因となり、現在の結果となる)
現在の結果
③ 識(しき)…認識(母体で肉体と精神の五蘊が生まれた時)
④ 名色(みょうしき)…肉体と精神の成長(体内の四週間頃)
⑤ 六入(ろくにゅう)…器官=六根(眼・耳・鼻・舌・身・意)が完成出産
⑥ 触(そく)…接触(幼児頃の感触での識別方法)
⑦ 受(じゅ)…感受(児童時期の苦楽を感じる状態)
現在の原因
⑧ 愛(あい)…渇愛(青春期の欲望のまま楽を求める状態)
⑨ 取(しゅ)…執着(欲求する者への執着心)
⑩ 有(う)…生存(手に入れたものを離さない執着心、未来の原因となる)
未来の原因
⑪ 生(しょう)…未来の世へ誕生すること
⑫ 老死(ろうし)…未来の世での老いと死への苦しみ
この十二縁起が循環生起して、過去・現在・未来の因果となる。この執着から離れることが「空」であり、とらわれない智慧が悟りの境地。
「四諦(したい)」とは、苦諦(くたい)・集諦(じったい)・滅諦(めったい)・道諦(どうたい)の4つをいい、諦とは真理(悟り)という意味です。
●苦諦とは、人生は苦であるという真理です。四苦とか八苦にわかれます。よく「四苦八苦する」というのはここが語源です。
○四苦とは、生老病死です。
・生…生まれる苦しみ
・老…老いる苦しみ
・病…病む苦しみ
・死…死ぬ苦しみ
○八苦とは、愛別離苦(あいべつりく)・怨憎会苦(おんぞうえく)・求不得苦(ぐふとくく)・五蘊盛苦(ごおんじょうく)この4つに生老病死を合わせた8つの苦しみです
・愛別離苦…愛する人と別れなければならない苦しみ
・怨憎会苦…嫌な相手と合わなければならない苦しみ
・求不得苦…ほしいモノが得られない苦しみ
・五蘊盛苦…肉体と精神が生み出す苦しみ
●集諦とは、人生の苦しみ(苦諦)の原因に関する真理です。
「貪欲と嫌悪とは自身から生ずる。好きと嫌いと身の毛のよだつこととは自身から生ずる。諸々の妄想は自身から生じて心を放つ(法句経)」
人間は、自分の不幸や苦しみを社会や他人の責任にすることがあります。しかし、苦しみの原因を考えてみると自分自身にあるということに気付きます。
様々な煩悩や執着が渇愛(喉が渇いて水を求めるような激しい貪りの心)となって苦しみの原因をつくっているのです。それを集諦といいます。
●滅諦とは、苦の滅した状態。すなわち涅槃(覚り)の境地です。
釈尊はあらゆる苦脳や束縛から離れた状態を滅諦としてとらえています。
●道諦とは、苦を滅する方法の真理です。
「八正道(はっしょうどう)」といい苦を滅するため8つの実践方法を説いています。
1、 正見(しょうけん)…正しい見解、正しい信仰
世の中、人生において正しい智慧と見解を備えること。
2、 正思惟(しょうしゆい)…正しい考え方、正しい決意・意志
善悪を正しく見極めれる力。きちんと頭で整理し正しい決断をする事。
3、 正語(しょうご)…正しい言語行為
美しい言葉を使う事です。嘘をついたり、悪口をいわない。
4、 正業(しょうごう)…正しい行い
正しい行動をすること。例えば、立ち居振る舞い、社会奉仕など
5、 正命(しょうみょう)…正しい生活方法
規則正しく生活すること。暴飲暴食は避け健康に気をつけること。
6、 正精進(しょうしょうじん)…正しい努力
・今まで起こっていない悪は絶対に起こさないように努力する
・すでに起こっている悪はこれをなくすように努力する
・今まで起こっていない善はこれを起こすように努力する
・すでに起こっている善はこれを更に増大させるように努力する
7、 正念(しょうねん)…正しい意識、正しい注意
正しい考えの元、常に自分を見失うことなく周りに振り回されることのないように常に意識すること。
8、 正定(しょうじょう)…正しい精神統一
正しく坐禅を組み、心を落ち着かせることが大切。
この八正道は、相互に密接に関わっており、統合することで苦を滅し悟りの境地に到ることができるのです。
少林寺20世 清涼 晃輝(せいりょう こうき)
1979(昭和54)年生まれ
豊川稲荷(妙厳寺)
愛知学院大学卒業
㈱坪井屋佛檀店
大本山永平寺
動物供養総本山 長楽寺動物霊園などで修行
平成21年 少林寺、蓮光寺(奈義町)住職就任
曹洞宗 圓通閣 澤龍山 少林寺
(美作西國三十三観音十一番札所)
〒709-4606 岡山県 津山市中北上1150番地 ℡0868-57-2303